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>>back >>next ルイズは夢を見ていた。 故郷、ラ・ヴァリエールにある屋敷……母親に叱られた幼いルイズは、泣きながら自分の『秘密の場所』中庭の池に向かう。 小船の中に忍び込み、毛布にくるまる。できのよい姉たちと比べられ、よく泣いていた幼い頃のルイズは、そのたびにこの場所にいくのだった。 (わたし……夢を見ているのだわ) 夢の中でぼんやりとルイズは思う。それでも、なんだか幼い頃の秘密の隠れ家は懐かしかった。 ふと、誰かの声が聞こえた気がして、幼いルイズ顔を上げる。 「泣いているのか……?」 中庭の島にかかった霧の中から、ゆらり、とマントをはおった男が現れた。 褐色の肌。頭に巻いた白い布。筋骨逞しい肉体。そして――底なく深い悲しみに満ちた眼差し。 (わたしは――この男の人を知っている……誰――誰なの?) そっと差し出される男の手。ルイズはびくんと震えた。大きく力強い、武器を握る手であった。ルイズは恐怖を感じる。 男は、それに気づいたのか、ゆっくりと手をおろす。 「すまない……私は――」 男が何かを言いかけた時、一陣の風が吹いた。 ごぉおおおおぉおおお…… 風が、男のマントを翻らせ、男の右肩があらわになる。 「――――っ……!」 そこにあったもの……いや、「なかったもの」を見て、ルイズは声にならない悲鳴を上げる。 男の右肩は、そこだけぽっかりと何もなかった。まるで何かおぞましいものが出て行ったように。何か邪悪なものが、そこから生まれでたように。 男が背を向けて歩き出す。 「ま、待って! お願い、待ってよ!!」 ルイズは男を追って駆け出す。次の瞬間―― 「――――! こ、ここはどこ?」 唐突に、ルイズは炎の荒れ狂う町の中に立っていた。建物を焼き尽くす劫火と、おびただしい人々の死体――。 (戦争……?) 混乱するルイズの耳に、さっきの右肩のない男の叫び声が聞こえてくる。 「ラーマァ! ラーマァア!! アアアアアアアアッ!!!」 背中に何本も矢を突き立てられた男は、少年の亡骸を手に、血の涙を流しながら狂ったように叫び声をあげていた。 燃える町にルイズは立ち尽くす。 おびただしい死体の地獄、そのさなかで、少年を抱いて叫び声をあげる、右肩のない男。 そして、空を飛んでいく、圧倒的なまでに巨大で邪悪な白い幻獣―― (あれは、誰だったのかしら……) ベッドでルイズが目を覚ましたとき、涙が頬を伝っていた。 しばらくぼんやりと天井を見つめていたが、ルイズはなぜかこみ上げてくる嗚咽を抑え切れなくなり、布団に顔を埋め、泣いた。 >>back >>next
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第三十三話『ミントとルイズの家族』 「はぁ~…」 「あの…溜息なんて吐かれてどうかなされたんですかミス・ヴァリエール?」 多くの生徒及び関係者がそれぞれ故郷や実家に帰る魔法学院の夏期休暇も半分が過ぎた。もう二週間もすれば再び学生として勉学と友人関係に奔走する日々が溜息を漏らしたルイズにとっても始まる事になる。 そんなルイズを心配そうな目で見るのは学園に残って仕事に勤しむシエスタだった。夏期休暇が始まると同時にミントと共に何処かに行っていたと思えばつい先日、何やら酷く疲れた様子で戻ってきたルイズ。 中庭で何やら重要そうな羊皮紙の束を手にしたままシエスタが煎れた紅茶を口に運んだと思えばルイズはしばらくその味と香りを吟味した後で眉をしかめたままティーカップを空にした。 「シエスタ。」 「は、はい。」 唐突に呼ばれ、シエスタはドキリとした…傍目から見てルイズのご機嫌は悪いと言える。具体的に言えばそれは何かに悩んでいながらその解決策も分かっているのに現状どうしようも無い状況に置かれて居る様な… 「紅茶、おいしかったわごちそうさま。」 「いえ、そんな…お粗末様です。」 ルイズから掛けられた意外な言葉にシエスタは目を丸くする。学院に勤めて居る以上貴族の子息の世話を長い事しているが紅茶一杯にこんなはっきりとした感想を与えられた事など初めてかも知れない。 そんな事を考えるシエスタを他所にルイズは再び難しそうな表情で書類をめくる…いけない事だと思いながらもついつい視線を向けたシエスタの視界の隅、その書類には王家の刻印が映されていた。 それを見て動揺しているシエスタに気づきながらもそれを気にした様子も無く、ルイズは書類をめくりながら独白気味に呟く… 「つい最近ね、色々あって初めて自分でも紅茶を煎れてみたわ。知識としては正しい紅茶の煎れ方は知ってたけどいざ自分でやってみると全然駄目ね。香りは飛ぶわ味はしないわ…改めて思うけど私達はいつもあんた達に助けられてるのね。感謝してる…」 「そんな…ミス・ヴァリエール…勿体無いお言葉です!」 果たしてこの言葉を聞いたのがマルトーだったらどうなっていた事か…ルイズのそこらの傲慢な貴族ならば絶対にしないであろう発言にシエスタは感激の余り、両手で口元を押さえて両の目を涙で潤ませた。 「シエスタ、ここだけの話、近くトリステインはゲルマニアとの連合軍でアルビオンに攻め入ることになるわ…戦争が始まるの。私が今読んでるこれはね、私とミント…だけじゃ無いでしょうけど私達が調べ上げて姫様が捕らえた裏切り者の売国奴のリストなの。」 と、まるで何でも無い様に言うルイズの言葉にさっきまで感動でむせび泣いていたシエスタが硬直する。とてもじゃないが一平民のメイド風情が耳にしていい話では無い。 「いくらメイジとしての才に恵まれようと、いくら名門の家柄に生まれようと貴族にもどうしようも無い屑がいるものね。そうそう、今言った話はまだ秘密だから誰にも言っちゃあ駄目よ。」 「解りました。あ、あの…ミス・ヴァリエール…この数日にあなたに一体何があったのですか?」 ルイズの発言に戸惑いながらもシエスタは問い掛ける。明らかにここ数日でルイズの身に何か価値観すらひっくり返る様な出来事があったはずなのだ… そのシエスタの問いにルイズはまさかこんな質問をされるとはと、一瞬驚きはしたが余裕を持った微笑を浮かべて答えるのだった… 「別に、何も無いわ。ただミントと一緒にね、平民のおっさんにセクハラされながらお酌して、お皿を洗って、失敗して、怒って、笑って、寝て、食べて、そんな誰でもやってる当たり前の事をちょっとだけ経験してきただけよ…」 ルイズはそう言って思い出し笑いなのか屈託無く笑う…シエスタは困惑気味に首を傾げたがルイズが皮肉気味に「これ以上は平民が知ろうとする様な事じゃないわ。」と言うとハッとした様に慌てて姿勢を正したのだった。 ____ 魅惑の妖精亭を中心とした諜報活動の結果、大勢の貴族の不正の実体やアンリエッタへの評判、戦争への平民視点での意見等々非常に多くの有益な情報をルイズはアンリエッタへと届ける事が出来た。 徴税官の一件でミントには不正を行う貴族を懲らしめてくれる貴族というイメージが定着しているのかその手の情報が勝手に向こうから寄ってくる上、スカロンの情報網は平民関連に関してはこのまま国の機関としてもやっていけるのではと思える程の物だった。 結果として、あくまで知識としてしか知らなかった平民の暮らしを実体験した事はルイズにとっては貴重な経験となっていた。 また、ルイズとミントがそんな事をしている間にアンリエッタは銃士隊を効果的に指揮を執り、また自身を囮にする事で高等法院長リッシュモンという大物の逆賊を捕らえる事に成功していた。 結果として二人の諜報活動とアンリエッタのネズミ狩り作戦の成功から得られた様々な情報を吟味したアンリエッタはアルビオンへの侵攻作戦を行う事を決定した。 ____ 魔法学園 ルイズが丁度午後のティータイムを楽しんでいる時間、魔法学園の正門前に2台の馬車が到着していた。 平民とは思えぬ程、何処に出しても恥ずかしくない立派な身なりをした御者が引く馬車に刻まれているのはヴァリエールの家紋。必然、その馬車に乗っている人物の素性は極限られた物となる。 「…全く…おチビったら夏期休暇になっても帰って来ないどころか連絡も寄越さないだなんて良い度胸してるわ…これはきつ~いお仕置きが必要ね。」 馬車から降り立った女はそう愚痴りながらも長くウェーブの掛かった金髪を掻き上げると久しぶりに訪れた懐かしき学舎を見上げながら不機嫌に厳しく吊り上がった目を細める。 「御者、ルイズを連れて戻りしだい直ぐに真っ直ぐヴァリエール領に向かうわ。出発準備をしておきなさい。」 「は!畏まりました、エレオノール様。」 毅然とした口調での命令を受けて御者は女、ルイズの実の姉であるエレオノールに姿勢を正して答えたのだった。 人が極端に少ない魔法学園の中、しばらくルイズを探してエレオノールがツカツカと石畳の上を歩いているとふとエレオノールは視線の先に一人の少女の姿を発見した。 服装はメイドでは無く中々仕立ての良さそうな、かといってマントを羽織っている訳では無く杖も持っていない。その姿にエレオノールは学園関係の私服の平民なのだろうと当たりを付けて声をかける事にした。 「ちょっと、そこの平民。ルイズ・フランソワーズを探しているんだけど、どこに居るか知らないかしら?」 エレオノールとしてはいつも通り、他人からすれば高圧的な物言いに声を掛けられた少女はキョロキョロと周囲を見回して誰も居ない事を確認するとようやくエレオノールの言う『平民』が自分を指しているのだと認識して少女ミントはエレオノールに向き直る。 「何?ルイズに何か用?あいつならさっきから中庭でお茶してたわよ。あたしも今からルイズの所に行くつもりだったから何なら案内してあげるけど?」 ミントはいつもと変わらぬ態度でエレオノールに数歩歩み寄る。ハルケギニアに来てから平民に間違われた事等もはや数えてすらいないいつものなので今更気になどしない。 エレオノールはミントの気安い態度に露骨に眉を寄せて厳しい視線を無言でぶつける。 まぁ常識的に考えてこの態度、やはり目の前の少女は私服に着替えた学園の生徒だったのだろうとそうエレオノールは結論づけた。平民呼ばわりされた事で怒っているのだろうか、でなければ目上の貴族に対するこの不遜な態度は説明がつかない。 「あなた…ルイズの友達?…まぁ良いわ、折角だから案内して頂戴。」 「オッケ~、じゃあ付いて来て。」 「あ、こらっ待ちなさい!!」 貴族として余りに態度の悪いミントの様子に魔法学園の品位の失墜を感じたエレオノールが額に手を当てていると、そんな事は構う物かとミントが踵を返して走り出した。 エレオノールはしょうが無いので慌ててミントを見失わない様に追いかけるのだった… ____ 魔法学園 中庭 「お~いルイズ~、あんたにお客さんよ~。シエスタ、あたしにも紅茶煎れて頂戴。」 程なくして学園の中庭に辿り着き、ルイズ達を発見してミントはその傍に駆け寄ってシエスタに紅茶を要求する。シエスタもそれを了承し、慣れた手つきで紅茶を煎れるとついでにミントの言うお客さん用にもう一杯を直ぐに注げる様に支度する。 「客?いったい誰なの…げげっ!!!」 ミントの言葉に手にした書簡から視線を起こしたルイズはミントから遅れてこちらに向かってくる人物、エレオノールの姿をみとめて思わず上擦った声を上げる。 エレオノールも同時にルイズの姿を発見したらしく、歩くスピードを一気に上げるとドシドシという効果音が付く様な力強い歩調でルイズ達の元に歩み寄った。 「お久しぶりね、ちびルイズ。実家にも帰って来ずに随分と夏期休暇を堪能しているようね~。」 「エ、エレオノールお姉様……い、痛い痛いれふぅ!!ごめんなしゃいっ!」 久方ぶりの姉妹の再会はエレオノールがルイズの頬を抓り上げ、ルイズがそれに涙目で許しを請うという形で果たされた。 ミントはその二人のやり取りをみてエレオノールが以前ルイズから聞いていた自分の苦手な姉なのだと察し、シエスタは自体が飲み込めずオロオロとしていた。 頬を赤く染め、涙を両目に浮かべるルイズの姿に威厳は既に無く、ついさっきまで名家の有能な貴族然としたカリスマを放っていた筈のルイズの姿が途端に幼い少女の物となる。 そうしてエレオノールはようやくルイズを解放すると相変わらず涙目のルイズに二言三言小言を言うと直ぐに自分がここを訪れた訳を説明したのだった。 エレオノールの話を要約すればルイズはミントを召喚してから一度も実家に顔を見せて居らず、アカデミー勤めのエレオノールが実家に戻るついでにルイズを回収に来たのである。 「さて、それじゃあ正門に馬車を待たせているから早速行くわよ。それとそこのメイド、あなた道中のルイズの身の回りの世話係りとして一緒に来なさい。」 「えぇ!?わたくしがですか?」 突然のエレオノールの命令にシエスタは目を丸くする… 「何かしら?何か文句がおあり?」 「い…いえ、とても光栄です。」 「そう、良い心がけだわ。」 エレオノールの有無を言わせぬ迫力にシエスタは唯納得するしか無い。まぁルイズの身の回りの世話は自身としても願い出たい所ではあったが。 「さて、後は…ルイズ、貴女が春に召喚した使い魔を連れてきなさい。話位には聞いているわ、何でも随分変わった使い魔だそうね。」 終始エレオノールのペースで進められるやり取りの中、遂に使い魔に関する話題が飛び出した事でルイズの身体が緊張でビクリと跳ね上がりそうになる。ルイズが実家に送った手紙では使い魔についてはまさか異国の王女とも言えずあくまで異国のメイジだとしか伝えていない… 家を離れているエレオノールの耳に届いている情報がどんな物かはルイズには分からないが先程の言いぐさからは本当に珍しい使い魔だと言うぐらいしか聞いてはいないのだろう。 「あ、それあたしの事よエレオノール。」 と、ここで黙って一連のやり取りを見つめていたミントは話題がルイズの使い魔の事に移行したので早速エレオノールに名乗り出たのであった。 「なっ!!??」 ____ 街道 「それにしても…突然でしたね。」 「全くよね…それにしてもあのルイズのお姉さん、ルイズに輪を掛けてきつい性格してるわね~、あれは絶対行き遅れるタイプよ。」 ヴァリエール領への街道を行く揺れる馬車の中、肩を竦ませて言ったエレオノールを表するミントの一言にシエスタは吹き出しそうになるがそれを何とか堪えて肩を震わせ顔を赤くする。 結局あの後、自分を呼び捨てにしたミントに対して烈火の如く怒り、怒鳴り散らしたエレオノールは結局そのままの勢いでメイジが召喚される訳は無いという根拠の無い確信からミントを平民だと思い込んだまま学園を発っていた。 エレオノールとルイズ、ミントとシエスタという組み合わせで乗り込む事になった馬車の中でルイズは非常に気まずい心持ちのまま苦手な姉エレオノールの対面で小さくなっていた。 「全く、使い魔への礼儀作法すら仕込めていないだなんてあんたはそれでもヴァリエールの家名を背負う者なの?」 「申し訳ありません。」 最早本能的にエレオノールに逆らえないルイズは項垂れる様にエレオノールに頭を下げる。 (あぁ…今更言える訳が無いわ…ミントが異国の王女で凄腕のメイジだなんて…それにあのお母様は何と仰るか…) 「聞いているのおチビっ!!!」 「ひゃいっ!!申し訳ありません!!」 目の前に迫る切実な大問題にエレオノールの説教を聞き流していたルイズの耳にエレオノールの怒鳴り声が響き、結局ルイズの中で渦巻く問題は一切解決の目処を見せぬまま、馬車はヴァリエール領へと辿り着いたのであった。 ルイズの実家であるヴァリエール領は隣国ゲルマニアとの国境沿いにあり、またヴァリエール家は王家と祖を同じくするトリステインの中でも最高位の名家である。 その本邸ともなればそれは最早立派な屋敷と言うよりは城と言った方が正しい程であった。 「「お帰りなさいませ。エレオノール様、ルイズ様。」」 一行が玄関をくぐりホールへと足を踏み入れるとそこには無数の従者が一切の乱れなく整列し、一斉に頭を垂れてエレオノールとルイズを出迎える。無論、その直ぐ後ろにいたミントとシエスタもそれぞれ客人として長旅の労をねぎらう様に声をかけられたのであるが。 と、そんな使用人の花道の先にある階段から一人の女性がゆっくりとルイズ達の元に近寄ってきているのにミントは気づき自然と視線はその女性へと向く。 「久しぶりですねエレオノール、ルイズ。」 鋭い眼光、厳しく威厳に満ちた中に見え隠れする優しげな声色。この女性こそルイズ達の母親であるカリーヌであった。 「お久しぶりでございます母様。戻るのが遅くなって申し訳ありません。」 言ってルイズは完璧な所作で傅いて母親へと挨拶を返す。ミントからすれば何とも堅苦しい母親との挨拶に久しぶりにここが流石に異世界であると言う事を強く感じる。 「えぇ。長旅で疲れたでしょう?晩餐の時間までゆっくりと休みなさい。…所で後ろのお二方はどなたなのかしら?一人はメイドのようですが?」 カリーヌの視線を受けてルイズが一瞬たじろぎ、シエスタはあまりの緊張に完全に固まってしまっている… かたや、はっきりと視線を交差させたミントはルイズの母カリーヌから凄まじい力の様な物を感じながらも怯むのは癪なので戸惑う事はせずむしろ堂々とした態度をとり続ける。 「紹介致します。このメイドは学園のメイドで普段私の身の回りの世話をよくしてくれているシエスタです。道中の連れ添いの為に連れてきました。」 ルイズはまずシエスタを簡単に紹介した。それに合わせてシエスタも多少ぎこちないながらもスカートの裾をつまみ淑女として恥ずかしくない態度で頭を下げる。 「そして、彼女が私が春の使い魔召喚の儀式で呼び出しました…遙か異国のメイジのミントです。」 緊張でカラカラになった喉から絞り出す様にルイズは母に事実を伝える… 母は昔からルイズへのお仕置きにはその強大な魔力から放たれる圧倒的な風の魔法を使用してきたのだがそれは最早ルイズにとってのトラウマでしかなかった… 一方母カリーヌはそのルイズの言葉に対して驚愕で目を僅かに見開くともう一度堂々とした態度で自分を見上げているミントを見つめ返す。 (成る程…彼女があの噂の…) 「はぁっ!?あなたメイジだったの?杖も持っていない上にマントも纏っていないじゃない!!」 詰め寄るエレオノールの驚愕の声と共に当然ヴァリエールの使用人達の間にも響めきがあがり驚いた様子が覗えた… 「お止めなさいエレオノール、それがヴァリエールの家の人間の振る舞いですか。ミス・ミント、あなたの複雑な事情はわたくしも陛下から公爵を通じ聞き賜っております。」 カリーヌの言葉にルイズとミントは驚いた表情を浮かべた。カリーヌの言い方であればどうやらミントの素性は既に伝え聞いている上でここでは無闇な拡散を防ぐ意図があるようだとミントは判断する。 「えぇ、事情を察してくれているのなら助かるわカリーヌさん。」 ミントは軽くおどけるように言って肩を窄めると微笑んだ。 「ちょっ!?」 同時にルイズはミントの母カリーヌに対しての「さん」付け呼称に肝を冷やす… 「あの、母様ミントは遠い国から来たもので少々礼節がなってないと言うか…何というか…」 「………うっさいわね…」 「ルイズ、それは文化の違い故でしょう?問題ありません…」 カリーヌはミントの砕けた態度に一瞬驚いた様子を見せたが意外にも寛容な反応を示す…が、それは気のせいだった。 「…折角ですからミス・ミントにはこれから数日、わたくしの指導の下、トリステインの貴族としてのマナーを学んで頂きますから。」 微笑んだカリーヌの言葉にミントは純粋な面倒を感じ、ルイズは幼き日々のスパルタ教育のトラウマを想起してしまうのであった… 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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(始祖ブリミルよ、お願いします。どうか、どうか魔法を成功させてください。エレオノール姉さまみたいな立派なメイジになりたいんです。でも胸はもうちょっと、ちい姉さままでとは言いませんから、あの三分の一くらいは……) ルイズが必死?に心の中で成功を祈りつつ、呪文を唱えるといつもの通りの爆発がおきた。 そして、煙が収まった後には……。 「お、大きな虫?」 そこにあったのは、今までルイズが見たことも無いほど奇妙なものだった。 本体なのだろうか、大きく膨れた体は甲虫の殻のように見えなくもない硬質の素材で包まれており、足は無く、中央から巨大なミミズを白く塗ったような長い首が伸びている。 首の先は再び硬質な殻に覆われ、二股に分かれており、それぞれの先にはトイレ掃除につかう吸盤のようなものが付いている。 詳しく観察するため近寄ったルイズだが、足も目も見当たらず、身動き一つしないそれは、生き物とは思えない。 もしここに、本来召喚されるハズだった少年がいたら、こう言っていただろう。「掃除機?」と。 「ミスタ・コルベール!」 「駄目」 「もう一度」 「絶対駄目。儀式やめますか? 進級やめますか?」 「……」 諦めて、謎の物体に(どこが口なのか分からなかったので目っぽい吸盤の間にした)口付けをするルイズ。 そのとたん、謎の物体から光りがあふれ、胴体?のような場所に光り輝く文字が浮き上がる。 【π】 「こ、これは見たことの無いルーンですぞ!」 コッパゲが叫ぶと共に、物体が生き物のように動いてルイズの洗濯板のような胸に、吸盤のような部分がピッタリとくっつく。 「な、なんなのよ!?」 あわてて外そうとするが、がっしりくっついて外れそうに無い。 使い魔の胴体が震え、低い唸り声のような音が辺りに響く。 「皆さん。手伝ってください!」 コッパゲと男子数名が、力を合わせて使い魔を引っ張って、ルイズから離すために協力する。 きゅぽん。 マヌケな音がして、吸盤がルイズから引き離される。 そして、勢いよく尻餅をついたルイズを見て男達が唱和した。 「「「「 バ ス ト 革命(レヴオリューション)!!」」」」 マリコルヌほども無い、平原のようだったルイズの胸。しかし、それは今や過去の話だ。 貧しきもの(貧乳)が、大富豪(巨乳)に、これぞ本当の胸革命。 見よ、これが、これこそが乳房だ。オッパイだ。 たわわに実った双子の山脈、その急激な隆起に耐え切れずボタンが弾け飛び、学院指定の白いブラウスの間から艶かしい白い豊かな谷間が顔を覗かせているでは無いか。 その大きさはキュルケにこそ劣るもののモンモン以上、いや、体の大きさから比較すれば、キュルケをも凌駕していると言っても過言では無い。 ルイズは、呆然と自分の胸から突き出た物に触ってみる。 ふにょん。 柔らかい。 つねってみる。 ぐに。 痛い。どうやら現実のようだ。ようやく事実を把握したルイズは、こみ上げる衝動のままに笑った。 「きた、来た、キター! ついに! この、私! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの時代がやって来たのよぉぉぉぉ!」 「やった。やったわ! とうとう夢が叶ったのよー!!」 小さな体に大きな胸を持ったルイズが浮かれて踊っているのを 「何よ! 大きければ良いってもんじゃ無いじゃない!」 小さな体に小さな――胸の無いルイズが、噛み付くように睨み付ける。 「小さくたって形が良い方が見目麗しいし、せ、せっ、性能が優れているほうがねぇっ!」 大きなルイズが、勝ち誇った顔で大きな胸をそらす。 「何を言ってんのよ!? 女として生まれたからには、やっぱり『ぱよっぱよのぽよんぽよん』で無くちゃダメなのよ! 愛する人や守るべき人を抱きとめる胸は、豊かであるべきなのよ!」 胸の無いルイズが、悔しげに目線を下に向ける。 「そ、そうなのかしら……」 大きな胸のルイズは、勝ち誇っている。 「そうよ! 決まっているじゃない!」 目が覚めた。 「夢?」 胸には、今まで感じることの無かった重みがある。 「うふ、うふふふふ」 自室のベッドで、陶酔した顔で、自分の乳房をこねくりまわす少女。 なんか危ない光景だ。 それでもなんとか着替えを始めるが、制服のボタンを閉じることが出来ない。ていうか大きな山脈が邪魔だ。 「うふふ、困ったわ、服を全部買い換えないとね。うふふ」 仕方が無いので、一番上から三番目までのボタンを外す。 プルプルとした果実が今にもこぼれてしまいそうだ。 手で押さえながら、食堂に行く間に3回転んだ。大きな重しがついたのでバランスが取れないのだ。 途中でキュルケに遭った。 「お、おはよう。ルイズ」 ルイズは、上機嫌で挨拶を返して胸を張る。 「おはよう。キュルケ」 だが、呆然としているキュルケの耳に届いたかどうかは不明だ。 「あ、あなた、本当に大きくなったのね……」 ルイズ、燦然と笑って見せる。 「そうかしら、まあ、ちょっとは膨らんだかもしれないわね。でも、そうは変わりないんじゃない?」 だれがどう見ても一目瞭然に違っていたが、キュルケに突っ込むだけの気力は残っていなかった。 「そういえば、あんたは何を召喚したのよ」 問われて、キュルケは後ろにいたサラマンダーを指差す。 「火トカゲのフレイムよ」 「普通ね」 ショックを受けたキュルケが、床に座り込んでのノ字を書きながら「ここまで鮮やかで大きい尻尾……ブランドもの……好事家に見せたら」とブツブツ呟く横をルイズは通り過ぎていった。 食堂に行くと、ざわめきがルイズの周りで起こる。 「あれが……」「信じられない!」「奇跡だ」「<胸革命>のルイズだ」「なんと神々しい」 (もう、まったくいやあねぇ。男子だけじゃなく。女子まで一緒になって噂して。まっ、悪い気はしないけど) ルイズが、気分良く食事をしていると、クラスメイトであるモンモランシーがなにやらモジモジしながらやってきた。 これまでさんざんルイズをからかってきた相手である。警戒心を抱いて。 「なにか、ようかしら?」 存外に食事の邪魔だという含みを持たせて問うが、モンモランシーはルイズの予想もしていなかった答えを返した。 「あ、あのね、ルイズ。わたし、新しい香水を作ったのだけど……も、貰ってくれないかしら」 モンモランシーが趣味で香水や怪しげな薬を作っていることは知っているが、何故、ルイズに? 「今まで、本当にごめんなさい。これはお詫びの印、ねっルイズ受け取って。わたし達友達になりましょうよ」 ここまで来て、ようやくルイズは飲み込めた。 モンモランシーの胸は、かつてのルイズほどでは無いが、小ぶりな方である。 ようするに昨日ルイズが手に入れた、世界さえも揺るがすあまりにも圧倒的で絶大な(豊胸の)力を持つ使い魔の恩恵にあずかりたいのだ。 さて、どうしようかとルイズが思案していると、モンモランシーが話しかけたのをきっかけに、周囲にいた人間が先を競って話しかけてくる。 「ルルルッルイズ、その場で飛び跳ねて見てくれたまえ」 「ミス・ヴァリエール。あの、お姉さまって呼んでいいですか?」 「ののしってください!」 「私、前から先輩のことをっ」 「ミス・ヴァリエール。これからは、困ったことがあったらなんでも相談してくれたまえ」 「あのわたくし、今度おみあいをするのですけど……」 変態的な要求をするもの口説くもの相談を持ちかけるもの大変な騒ぎで、結局、ルイズは授業に遅刻した。 遅刻したルイズは、罰として錬金の魔法に挑戦することになったが、今までとは違い、クラスメイトからは嘲りではなく、応援の声(主に胸のつつましやかな女子)が飛び。 男子たちは、一様に固唾を呑んで一瞬もルイズを見逃すまいと何かに期待している。 胸の大きい女子の中には、ふてくされているものもいるがこれまでルイズが受けていた境遇とはまるで違う。 (使い魔のおかげね) ルイズは、感謝の念を使い魔に送りながら呪文を唱え。 石ころが爆発した。 「ケホっ、ケホっ」 ルイズは、痩せた発明家とずんぐりした力持ちの子分を持った女泥棒が任務に失敗してオシオキされた後のような格好になっていた。 バストが大きくなったことにより、見た目の破壊力も上昇、いつも野次を飛ばしていた男子たちが鼻血を出して、バタバタと倒れていった。 そんな男子を踏みつけて、お近づきになろうと狙っていた女子たちが駆け寄る。 「ルイズ! 大丈夫?」「大変、怪我しているじゃない」「いま、治癒魔法かけるからね」「わたし、着替えとってくる!」 その後、ルイズは教室の片づけを命じられたが、善意の協力者たちの手によって瞬く間に終わってしまった。 夜。 自室でルイズは、かつて何度も涙に濡れた枕を抱きしめながら笑う。 こんなにちやほやされたのは初めてだ。例え下心があったって嬉しい。 「これも全部、使い魔のおかげね」 感謝の念を込めてベッドの脇に置いてある使い魔を見つめる。 感覚の共有も、秘薬探しも、主人を守ることもできないソレは、しかし、ルイズにとって最高の使い魔だ。 「うふふふ。この使い魔を使って、私は新世界の神になるわ!」 ルイズが薔薇色の未来を妄想し、眠りについたその日、使い魔が盗まれた。 後に残されたのは、壁に刻まれた文字だけ。 『豊胸のマジックアイテム、確かに領収しました。土くれのフーケ』 翌朝。 トリステイン魔法学院では、蜂の巣をつついた様な騒ぎがおこっていた。 貴族の子弟をあずかる学院、それも女子寮に忍び込んだ者がいるというだけでも学院が取り潰しになりかねない不祥事である。 だが、そんなことを気にしている者はいなかった。 ルイズの使い魔の胸大(きょうだい)な力、それがもたらすユートピアを夢想していた、つつましやかな女子や、大きいものに憧れる男子の夢。 それが砂上の楼閣がごとく、崩れ去ってしまったことこそ重要だ。 絶望と怒りに満ちた者達の騒ぎを止めたのは学院長の優秀な秘書、ロングビルだった。 「フーケの居所がわかりました」 感嘆の声が上がる中、オスマンは詳しい話を聞いていく。 近在の農民が見た怪しげな男が住処にしているという廃屋のことを。 「すぐに王室に報告しましょう! 王室騎士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」 コルベールが叫んだ。 オスマンは、首を振ると、目をむいて怒鳴った。年寄りとは思えない迫力であった。 「ばかもの! 王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ! その上……、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ! 世界の至宝が盗まれた! この魔法学院からじゃ! 当然我らで解決するに決まっておろう!」 ミス・ロングビルは、微笑んだ。まるで、この答えを待っていたかのようであった。 オスマンは、咳払いすると、有志を募った。 「では、捜索隊を編成する。我をと思うものは、杖を掲げよ!」 そういうとオスマンは、自らの杖を掲げた。 すべては、学院中の女教師、メイド、生徒が全てボインボインになるアルカディアのその為に。 「風の最強を証明しましょう」 ギトーが、 「生徒を危険な目に逢わせるわけにはいきません」 コルベールが、 「(どさぐさにまぎれて破壊してやるわ)私も」 キュルケが、 「……」 タバサが、 「水の使い手も必要でしょ?」 モンモランシーが、 「君は僕が守るよ。薔薇の棘の様にね!」 ギーシュが、 「ハアハア、おっぱい、おっぱい」 マリコルヌが、 「おっと、僕たちのことも忘れてもらっちゃ困るね」 ギムリが、レイナールが、 そして多くの同学年の生徒たちが、 「お姉さま、わたしもお供いたしますわ!」 ケティを始めとする一年の女子達、そして男子達が、 「可愛いルイズ、わたくし貴方を実の妹のように思っているのよ」 「後輩を守るのは先輩の務めだからな」 3年の諸先輩方が、 「こいつは、メイジだけの問題じゃありませんぜ」 包丁を握ったマルトーと使用人たちが、 「私たちだって、ルイズさまの使い魔を取り返したいです!」 メイド達が、 学院の皆が、ルイズの使い魔を取り戻すために志願した。 「みんな……ありがとう、ありがとう」 ルイズは感激のあまり泣いた。 そして、フーケの居所を突き止めたロングビルの手を握って何度もお礼を言った。 ロングビルの笑いは、微笑から虚ろな笑いへと変わっていた。 そして、オールド・オスマンが自ら進軍の号令をかける。 フーケの潜む廃屋を目指して、ルイズの使い魔を奪還するために、トリステイン魔法学院は、その総力を結集したのだ! 森まで来て、魂が抜けたようなミス・ロングビルが何度も道を間違えて迷ったものの、先行して森を探索していた生徒の使い魔達によって、廃屋はあっさり見つかった。 「皆さん。下がってください。私がゴーレムに命じて小屋を捜索しますわ」 青い顔をしたままのロングビルが、杖を振るって巨大なゴーレムを作り出す。 そして、ゴーレムは命じられるまま―――――小屋に向かわず、ルイズをその手に握りこんだ。 「あんたたち! 杖と武器を捨てな! ちょっとでもおかしな真似をしたら、ヴァリエール公爵家御令嬢の命は無いよ!」 ロングビル突然の凶行に、普段閑静な森にざわめきが満ちる。 「まっ待ちたまえ、ミス・ロングビル。なぜこんなことを!」 「そうよ! 貴方、豊胸の力なんていらないじゃない!」 慌てふためき、口々に説得しようとする学院関係者たちを見回しながら、ロングビル、いや、土くれのフーケは血涙を流してとある魔法を解呪した。 とたんに豊満に突き出していた胸の布地がペシャと萎んだ。 「この胸はニセモノさ! あんたらに、あんたたちに何歳も年下の妹がドンドン育っていく姉の気持ちが、見栄を張って土の魔法でパッドをつける姉の気持ちが分かるもんか!」 それはあまりにも悲しい告白であった。 だが、学院関係者誰もが動きを止めた中、ただ一人ゴーレムの、フーケの前に立ったものがいた。 「分かるわ」 その顔を見て人質になっていたルイズが驚愕の叫びをあげる。 「エ、エ、エ、エレオノール姉様!! なんでここに!?」 だが、その問いには答えずエレオノールは、フーケの目を正面から見据る。 「わたしには、ルイズの上にカトレアという妹がいるわ。その娘は、その娘の胸はね……」 声を震わせ、言葉を途切れさせるエレオノールだが、そのいいたいことは十分に伝わった。 「今回、私が噂を聞きつけて学院に、ここについて来たのはアカデミーの権限でルイズから使い魔を取り上げるつもりだったわ」 その言葉にルイズが青ざめるのを一瞥し、エレオノールは静かに首を横に振る。 「でも私が間違っていたわ。ルイズの使い魔は、使い魔の力は個人が、いいえ国でさえ所有していい力じゃない。この世界全体の――胸の大きな妹を持った姉のために使われるべき力なのよ」 フーケは、杖を取り落としてエレオノールと抱き合い、泣きあった。 その後。 ロングビルは、フーケの名を騙って生徒の使い魔を盗んだ罪により半年間の減給処分。 だが、もう胸を偽らずに妹に会えるとその顔は喜びに溢れている。 エレオノールは、コルベールとも協力してルイズの使い魔の力を分析して、量産する計画を練っている。 オスマンは、周り中巨乳だらけになって天国だと毎日浮かれている。 モンモランシーとギーシュは、仲が良くなりすぎて学生結婚することになった。 キュルケは、「乳が何よ、総合的な魅力で勝負よ!」と自分を磨く旅に出た。 タバサは、デコな従姉妹を味方につけ母親を治す薬を手に入れることが出来た。 レコンキスタは、ガリアの政変でジョゼフが失脚した上、婚約者にベタ惚れしたワルドの裏切りで壊滅した。 ロマリアは、ルイズを聖女と認定。聖女のいる国トリステインを全面的に保護することに決めた。 そしてルイズは…… 「今日の予定は、後、ほんの500人ほどですからがんばってくださいね」 「うう、まだそんなにいるのぉ」 使い魔の力を発動できるのが今の所、ルイズだけだとわかり、忙しい日々を送っている。 ゼロ魔で革命といえば、おっぱい革命。異論は認めない。 「まほろまてぃっく」から、四巻に出てきた怪しげな通販の豊胸機、πdealαを召喚。 原作と違って効果が永続しているのはルーンの効果。 戻る
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前ページ次ページゼロと電流 「貴女には、なんと言えばいいのでしょうね」 城に入ったルイズは人払いをしたアンリエッタの前に通される。ルイズはまず、手紙を差し出した。 右腕に巻かれた包帯はまだ新しい。シルフィードに運ばれている間に水の秘薬とモンモランシーの応急処置を受けただけで、きちんと医者に診せたわけではないのだ。 学院でシルフィードから降りるとすぐにマシンザボーガーに乗り込んだルイズに、そんな時間はなかった。 キュルケ達は当然止めるが、ルイズには急ぐ理由があった。その理由の一端を話すと、全員が口を閉じる。 全員がルイズの用件の緊急性を理解したのだ。 「ウェールズ様からお預かりしました。ご確認ください」 即座に手紙を開いたアンリエッタは、それがかつての自分によるものだと確認次第、手紙を脇へ置く。 次にルイズは始祖のオルゴールを。 アンリエッタも何も聞かずに受け取る。 説明は必要なかった。 アルビオン王家にあるべきものをルイズが、いや、ルイズ経由でアンリエッタが、トリステインが託された。それだけで充分だった。 「大儀でした。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 アンリエッタ・ド・トリステインとして、アンリエッタは言う。 そして、ルイズの幼馴染みアンリエッタは言う。 「ごめんなさいっ!」 「姫殿下?」 伸ばしたアンリエッタの手が、ルイズの左肩に優しく触れる。そしてアンリエッタは立ち上がり、ルイズへと歩み寄った。 「私が余計なことを言ったばかりにこんな……」 あくまでも優しく、アンリエッタは逆の手でルイズの右腕に触れる。 「貴女をこんな目に遭わせる気なんてなかったのです」 ルイズは一歩下がり、跪いて頭を垂れた。 「ルイズ?」 「これは私の、愚かさが招いた怪我です。決して姫殿下の責など……」 「ルイズ!」 「姫殿下。まずはお聞きください」 アンリエッタの言葉を遮りながら、ルイズは語り始める。 アルビオンで見たことを。聞いたことを。感じたことを。 一部の急を要する情報はここに通される前に既にマザリーニに伝達済みではあるが、アンリエッタにとっては初耳な話ばかりだった。 そしてルイズの話がワルドの裏切りに至ったとき、アンリエッタは目を見開く。 「……あの人が……」 いずれはトリステインを代表する騎士となる、とまで考えられていた男である。アンリエッタとて、何度か拝謁を許したことがある。 信じられない。 いや、そうではない。逆に自分はワルドを信じていたのか。 側近であるマザリーニすら本当には信じられずにいた自分が、どうしてワルドを信じていると言えたのか。 まさに愚かな王族ではないか。とアンリエッタは自嘲する。 「愚かですね」 「はい」 素直に答えたルイズに、アンリエッタは俯いていた一瞬顔を上げる。その表情には不審と驚愕が表れていたが、すぐにルイズの言葉が自分を指したものではないと気付く。 ルイズは、ルイズ自身のことを言っているのだ。 「私は愚か者でした。姫殿下のお言葉に甘え、暴走しました。無断でアルビオンへ向かい、あまつさえ、裏切り者を引き込んでしまいました」 「ルイズ……」 「姫殿下が私を処罰すると仰るのなら、私はその罰をお受けします」 「何故です」 アンリエッタは問うていた。 違うのだ。 ここにいるのはルイズではない。いや、確かにルイズなのだが、アンリエッタの知っているルイズではない。 何かが、大きく変わっている。 その変化は好ましいものではないかとアンリエッタの中の何かが、ルイズの親友としてではない、トリステインという国を預かる者としての何かがそう訴えているのだ。 だから、アンリエッタは問うた。その問いの意味すら、自分では理解していなかったというのに。 「私が、トリステインの貴族だからです」 「貴族だから、王族に従うというのですか?」 「いいえ」 ルイズはきっぱりと答えた。 「貴族だから、真っ直ぐに道を行くのです」 「罰を受けるのが、正当な道だというのですか?」 「間違っていた自分を正すのは、正当な道だと思っています」 アンリエッタが積極的に罰を与えたがっているというわけではない。それはルイズにもわかっていた。 それでも、何らかの形の罰は必要だろう。 ルイズは、無断で紛争中のアルビオンへ向かったのだ。その一事だけでも、罰には値する。 「私は、ザボーガーという分不相応な使い魔を召喚しました」 ザボーガーの力に振り回されていたこと。その力に酔いしれていたこと。 思い上がりと鼻っ柱をギーシュに砕かれ、藻掻き足掻くなかでアンリエッタの言葉を曲解したこと。 自分は姫殿下の、幼馴染みの想いを叶えたいと思ったのではない。それによって自分の地位を取り戻そうとした。利用しようとしていたのだ。 それがどれほどの身勝手で愚かだったか。 誰のためでもなく自分のために、力に地位に執着する愚かさ。 ルイズは、ワルドを醜いと感じた。その時に気付いたのだ。自分自身のこれまでの醜さに。 力に溺れる存在にはなりたくないと思っていたはずだった。 それがどうだ。ザボーガーという力を得た瞬間、自分はどうなった。 力に溺れる存在になりたくない? それは、魔法という力を持たない自分を正当化するための偽りだったのではないか。 力を持った上で力に溺れぬ事が、どれほど難しいか。本当にわかっていたのか。 力を持つということが、どれだけ誘惑に満ちているのか。理解できていたのか。 ギーシュに負けたことで何故落ち込む。ギーシュが自分より強いと思ったなら、彼に学べばよいのだ。 タバサでも、キュルケでも、モンモランシーでも。自分より優れていると思うのなら学べばいいのだ。 今までが愚かなら、改めればいい。 滑り落ちたのなら、這い上がればいい。 貴族に相応しくないと思うのなら、次から貴族らしく振る舞えばいい。 それがせめてもの、今の自分の誇り。 「貴族として、使い魔の主として相応しくありたいと思いました」 だからルイズは、再び前を向く。前を向くことを宣言する。 貴族として、魔法使いとして。 貴族だからといっても魔法が使えるとは限らない。それをルイズは誰よりも知っている。 そして、魔法が使えるからといって貴族に相応しいとは限らない。 魔法を使える者が貴族なのではない。魔法という力に溺れず、正しく力を行使できる者こそ、貴族と呼ばれるに相応しい。 力に溺れた魔法など、ただの暴力装置に過ぎない。 ルイズは気付いていた。 使い魔を呼ぶ意義とは。 自分に相応しい使い魔を呼ぶ。それだけではまだ半分なのだと。 自分が使い魔に相応しい主となること。それが出来てこそ、真の使い魔召喚の儀なのだ。 「今の貴女なら、それが出来るでしょう。いえ、前に進むことが出来るでしょう」 アンリエッタは立ち上がり、ルイズの前へと進む。 「ルイズ、貴女は未だに、私の秘密騎士でいてくれますか? 貴女の使い魔ザボーガーと共に、私のため、いえ、トリステインのために動いてくれますか?」 再び跪くルイズ。 「姫殿下のお許しがいただけるなら」 「勿論です」 一旦受け取っていた風のルビーを、アンリエッタは手ずからルイズに指にはめなおす。 「この指輪は貴女が持っていなさい。私の直属として動くことが出来るように、様々な許可証の代わりとなるでしょう」 そして自らのはめた水のルビーをかざした。 二つの指輪は共鳴し、虹色の光が現れる。 「かつて一度だけ、ウェールズ様と二つの指輪を合わせたことがあります」 ルイズは無言で溢れる光に目を向け、アンリエッタの言葉に耳を傾ける。 アンリエッタはウェールズとの想い出を語っていた。それは、ルイズに聞かせるためではない。 自分自身に、もう一度ウェールズを思い出させるため、そして、けじめを付けるために。 「こんな、音も聞こえないオルゴール。それでもウェールズ様は、何度でも試すのだと、いつもこれを開いていました」 開いたオルゴールから音は流れない。流れるはずはなかった。 しかしその時、ルイズは確かに聞いたのだ。 オルゴールから聞こえる言葉を。 それは虚無の術者への語りかけ。 「……嬢ちゃん、こいつは当たりだぜ?」 それまで黙っていたデルフリンガーが口を開いた。 「ルイズ?」 「姫殿下、これは……」 それは、虚無の使い手の前でルビーと宝物の二つを合わせることによって初めて起こる現象。 それは、虚無の使い手にしか感じられない言葉。 ルイズは知った。己の魔法の属性を。 己の爆発魔法の出自を。 「……〈爆発〉……〈記録〉……」 二つの虚無魔法がルイズの意識に記されていく。 任意の物体を爆発される攻撃魔法。 物体に込められた記憶を再生する魔法。 「聞こえるの……声が……」 「ルイズ?」 ルイズは突然立ち上がると、テーブルの上にアンリエッタの注意を向ける。 紡ぐ呪文。 テーブルの上に置かれた菓子の一つが、突然小さく破裂する。 「今のは?」 「虚無魔法〈爆発〉ですわ、姫殿下」 その言葉にアンリエッタは驚くと、直ちに説明を求めた。 ルイズは隠すことなく、今その身に起こったこと、始祖のオルゴールから聞こえてきた言葉を余さずに報告する。 王家に伝わるルビーと対をなす秘宝こそが、虚無の使い手を目覚めさせるアイテムなのだと。そして今、ルイズはその力を得たのだ。 「……ああ、思い出したよ、嬢ちゃん」 デルフリンガーがルイズの言葉を補足していた。 四つの秘宝。四つの虚無。四つの使い魔。 「この国にも、そんなのがあるんじゃねえか? このオルゴールみてえに、一見役に立たないのに、大事にされてきたものが」 「……始祖の祈祷書」 アンリエッタは理解した。 あるのだ。始祖の祈祷書と呼ばれている代物ではあるが、その中身は誰も知らない。いや、中身は全くの白紙なのだ。だから、誰にも中身は読めない。 「ルイズなら、祈祷書が読めるというのですか……?」 「少し違うね」 答えたのはデルフだ。 「虚無魔法ってのは、習い覚える類のもんじゃねえのよ。必要に応じて、その祈祷書なり、このオルゴールが教えてくれるもんだね。今だって、嬢ちゃんが覚えたのは二つだけ。いくらなんでも、虚無の魔法が二つきりってこたぁねーやね」 「〈爆発〉と〈記録〉が?」 「〈爆発〉は嬢ちゃんが今まで無意識に放っていたもんだろーね。〈記録〉は……」 「ザボーガー、ね」 「だね」 二人はザボーガーの置かれた中庭へと移動する。 その後ろにいつの間にか現れ従うのはアニエスだ。 ザボーガーの記録に目を通すことを、アンリエッタは希望しルイズは承諾した。 虚無の使い手であったルイズ。ならばそのルイズに召喚されたザボーカーとは一体なにか。 場合によってはトリステイン、いや、ハルケギニア全体にも関わる問題なのだ。 ルイズは電人ザボーガーを一旦、城内まで移動させる。 そして呼ばれるマザリーニ。 ザボーガーを招いた部屋にはルイズとアンリエッタ、そしてアニエスとマザリーニが揃う。 アンリエッタからの説明をマザリーニは淡々と受け入れる。 「驚かないのですね」 「可能性はあると考えられていましたからな」 王家の血を引くものが虚無を受け継ぐ。今の王家にいないのならば、王家の傍流、すなわちヴァリエール家を筆頭とする者たちである。 「既に、学院からは内々に報告を受けておりますし」 アンリエッタはやや眉をひそめるが、ルイズは素直に頷いた。今にしてみれば、考えられないことではないからだ。 「よろしいですか? 姫殿下」 「ええ」 ルイズはゆっくりと呪文を唱えるとザボーガーの中の記録を取りだし、四人の目の前に開陳する。 犯罪捜査ロボットとして大門勇博士によって作られたロボット、電人ザボーガー。 だが、ザボーガーの動力源として開発した新エネルギーダイモニウムを狙う悪之宮博士によって、大門博士は殺されてしまう。 大門博士の息子でもある警視庁の秘密刑事大門明は、ザボーガーと共に悪之宮博士率いる秘密殺人強盗機関Σ団と戦い、これを粉砕した。 しかし、Σ団を直接壊滅させたのはザボーガーではなかった。 ザボーガーに追いつめられたΣ団は、魔神三ッ首率いる恐竜軍団に襲撃され壊滅したのだ。 そして激闘の末、ザボーガーは魔神三ッ首と相撃ちとなり、戦いは終わった。 映像が薄れる中、ルイズの声が三人に聞こえる。 ザボーガーを動かすダイモニウムとは、怒りの電流で代用することも出来る。そして怒りの電流とは、ここハルケギニアでは“虚無”とも呼ばれているのだと。 つまり、ハルケギニアでザボーガーを動かすことが出来るのは、虚無の使い手のみ。 さらに、Σ団との戦いの中ではマシンザボーガーと同等のマシンホーク。恐竜軍団との戦いではザボーガーと合体する事によってストロングザボーガーにパワーアップさせることのできる、マシンバッハというモノが存在していた。 もしかすると、マシンホークとマシンバッハも他の虚無に召喚されているかも知れない。 「ということは、そのマシンホーク、マシンバッハがアルビオン、ガリア、ロマリアに?」 「可能性としてはそうなるでしょうな」 「すぐ調査を。ただし極秘裏にです。こちらに虚無とザボーガーがあることを知らせぬように」 「はっ」 即座にマザリーニへと指示を出したアンリエッタは、次にアニエスを医者の元へ向かわせる。 王室付きの医者にルイズの腕を任せようということだ。 「ルイズ、貴方はまずその腕を治すことに専念しなさい」 「はい」 活発に動き出す四人。だからこそ、 「……まさか、そんな……」 デルフリンガーの小さな呟きは、誰にも聞こえなかった。 その日から、ルイズは数日を王宮で過ごすこととなる。 傷を癒すだけでなく、ザボーガーの今後の運営、そして虚無への対応。 また、〈記録〉によってルイズが初めて知ったザボーガーの性能についても検証しなければならない。 整備、補給を考えなければならない。ザボーガー本来の世界でないここで、どれほど補給と整備が可能なのか。 療養とは思えない忙しさで、ルイズは走り回ることとなっていた。 そしてルイズの知らぬ間に、物事は動く。 一つは、ルイズの母であるカリーヌが、ルイズに合うために王宮へ向かったこと。 そしてもう一つは…… 「久しぶりだな、シャルロット」 王からの気さくな挨拶に、タバサは非の打ち所のない答礼を返す。 「王とはいえ、伯父と姪ではないか。もう少し楽にすればどうだ?」 ジョゼフは親しげに笑う。 ここはガリアの王宮。急の呼び出しを受けたタバサの前に現れたのは、あろう事がジョゼフ本人だったのだ。 「なに、今更貴様に毒を飲めと命ずるつもりはないわ。安心するがいい」 タバサの表情が揺れる。 怒りが、内に秘める事の出来ぬまでに膨張しようとしている。 「命じられても、呑まない」 「ふむ。そうであろう、そうであろうとも」 ジョゼフはひとしきり笑うと、六つのビンを並べたテーブルを示す。 「ところで、貴様は博打が得意だと聞いたが。余と勝負する気はないか?」 タバサの目がビンに向けられる。 「一つは、解毒薬だ」 「……残り五つは?」 「さあな。だが、掛け金を出せば、あそこから一つ選ばせてやると言っているのだ」 「何をすればいい?」 いくら、と聞かないタバサに、ジョゼフは機嫌良く微笑んだ。 「ザボーガーを、連れてこい」 何故かタバサには、ジョゼフの向こうに三ッ首の竜が見えたような気がした。 前ページ次ページゼロと電流
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前ページ次ページゼロの斬鉄剣 ゼロの斬鉄剣 5話 ―泣き虫(クライベイビィ)・ルイズ 後編― 早朝 いつもより若干早く目を覚ます五ェ門、ハシバミ草の効能のおかげで肌寒いものの 風邪は引かなかったようだ。 「さて、とりあえず洗濯をいたそう。」 さすがにルイズの洗濯物は無いので今日は五ェ門の胴衣のみだった シエスタが五ェ門に声をかけたのは既に洗濯が終わり焚き火で干しているときのことであった 「おはようございます、ゴエモンさん。」 おお、と振り向く五ェ門 「おはよう。昨日は馳走を頂き感謝している。」 くすっと笑うシエスタ 「いいえ、まさかゴエモンさんの故郷と曽祖父の故郷が一緒だったなんて。」 なるほど、そういわれればこの黒い髪と黒い瞳、どおりで日本人を感じさせるわけだと五ェ門は納得する。 「ところで、今日はミス・ヴァリエールの洗濯物はないんですか?」 うっと顔が引きつる五ェ門 「ああ、面目の無い話だがルイズと喧嘩になってな・・・」 「まあ、どうしてですか?」 「話すのも恥ずかしい理由なのだ、捨て置いてくれまいか。」 心配そうに顔を歪めるシエスタ 「まあ、早く仲直りできるといいですね。」 「うむ、拙者の不注意でルイズを怒らせてしまったのであるからそういたすつもりだ。」 「がんばってくださいね、ゴエモンさん。」 シエスタは名残惜しそうに五ェ門の元を去る そのころのルイズ 「おっほっほ、貴方の使い魔はこのキュルケ無しではいきてはゆけないのよ?」 「拙者、キュルケ殿にぞっこんでござる。」 「ゴエモン、私の靴をおなめ!」 ペロペロペロ 「やめてー!」 絶叫とともに目を覚ますルイズ 「はあ・・・はあ・・・最悪の目覚めだわ・・・」 部屋をみわたすルイズ 「ちょっとゴエ・・・・」 言いかけて昨日の出来事を思い出すルイズ 「(そうだったわ、ゴエモンは昨日私が・・・)」 ため息をつくルイズ 五ェ門が来てからというもの朝の決まった時間には起こしてくれていた。 しかし今朝は五ェ門はいない。 「(やっぱり、言いすぎだったのかしら・・・いや、いけないわ、いくら強いからって主人はあくまであたしなんだから!)」 気を引き締めるルイズ 扉をあけ、そそくさと食堂へ走るルイズ 入れ違いで五ェ門がルイズの扉を叩く 「(いない、か)」 そこへキュルケとタバサが現れる 「あらダーリン、おはよう」 「・・・・おはよう」 「うむ、二人ともおはよう、しかし何だそのだありんとは。」 くすっと笑うキュルケ 「それより昨日はごめんなさいね。」 おもったより素直な言葉を聞いた五ェ門 「もうよい、キュルケはもっと自分を大切にするんだな」 「あら、でもあきらめませんことよ?」 ニンマリわらうキュルケ 「(まったく、こりないな。)」 ふと、タバサがキュルケの前に 「タバサ、昨日の差し入れ、いたみいる。」 「いい・・・きにしないで。」 頬がわずかに赤らむタバサ それをジト目で見るキュルケ 「あら、あたしの誘いを断った後でお二人は何かあったのかしら?」 ちょっとすねるキュルケ 「いや、いろいろあってハシバミ草の差し入れを頂いたのだ、これが美味でありがたかった。」 「・・・・ゴエモン、あなたハシバミ草たべれるんだ。」 「うむ、おかげで今朝は思いのほか目覚めはよかった」 驚く顔をするキュルケ 「そ、そう、じゃああたしたちは食堂いくから、またね~」 タバサをつれ食堂へ向かうキュルケ 「(あの二人はあんなに違う性格で仲がよいのだな。)」 ふと、五ェ門の脳裏に相棒二人の顔が浮かぶ 「(今頃ルパンと次元は何をしておるのだろうか。)」 ちょっとセンチになる五ェ門であった 食堂でさっさと食事を済ませたルイズ 「(なんでゴエモンは姿をあらわさないのかしら・・・・)」 あの律儀な五ェ門のことだから朝になればなんらかのアクションを起こすと思っていたが 微妙なすれ違いで肩透かしをくうルイズ 「いけない、今日の朝は秘薬に関する筆記試験だったわ!」 はっと気がつきそそくさといつもの教室へ向かうルイズ 「むう、試験中とは・・・」 今度こそルイズにきちんとお話しておこうとおもったのだが いざ向かった教室には、「試験中につき立ち入りを禁ず」の張り紙 仕方が無く教室のエントランスにある椅子へ腰をかける 間もなく早く終わった生徒が何人か出てくる 「あ、あなたは・・。」 む?と顔を上げるゴエモン 「そなたは、昨日の・・・」 「モンモランシーですわ。」 「拙者は石川五ェ門と申す」 「あら、貴方のことはもう知ってるわ」 クスリと笑うモンモランシー 「昨日は、そのすまないことをした。」 首を振るモンモランシー 「あなたのせいではなくってよ。悪いのはギーシュなんですもの。」 すこし申し訳なさそうにする五ェ門 「あの後ね、私に謝ってきたわ。ひどい姿だったけど」 思い出すように笑うモンモランシー 「私、彼を許すことにしたわ」 ほう、と五ェ門 「だって、いつまで怒ってもしょうがないでしょ?それにあの日は私の香水をつけてくれたんだもの」 「(ううむ、拙者は香水は苦手なのだ。)」 と口には言わない五ェ門 「ただし、今後浮気は許さないっていう条件でね。」 ふっ、と五ェ門は笑う 「とにかく、彼は貴方にお詫びがしたいといっていたわ。」 「ほう、あれだけ痛めつけたのだから拙者をうらんでいるとおもったが。」 「あら、彼は仮にも誇り高き軍人貴族よ?第一そんなに狭量な男ならとっくに見捨てているわよ。」 ふふふと笑いながら五ェ門を見つめるモンモランシー 「私も貴方に感謝しているわ、ギーシュもちょっとはいい男になったし、浮気しないって誓ったし。」 「まあ、そういうことなら拙者からは仲良くやれというしかないな。」 「ふふ、ありがとう、じゃあ私はこれで失礼するわ。」 うむ、と五ェ門は頷きモンモランシーの後姿を見送る ―― 「(ふう、やっと終わったわ~、魔法薬の試験はすこし苦手なのよね)」 まずまずの出来だと自負するルイズ 「(さて、ゴエモンはまっているかしらね?)」 そう扉をあけると そこには楽しそうに談笑するモンモランシーと五ェ門の姿があった にわかにルイズの怒りが沸点に達する 「な・・・なによ!なによなによなによ!キュルケの次はモンモン!?」 ギリギリと歯軋り 「なによなによ!あたしがおちこぼれだからって!使い魔にまでなめられるなんて!」 ボロボロと涙を流し始めるルイズ モンモランシーを見送り扉に目をやると、そこには涙を流した鬼神が立っていた 「(何事が起きたのだ・・・)」 無言で五ェ門に近づくルイズ 「あんたなんて!あんたなんて!・・・ファイヤーボール!」 「むっ!」 バーン! ギリギリで交わしたが至近距離の爆風を受ける五ェ門 先ほどまで座っていた椅子は粉々だ。 「くっ、待て!ルイズ!」 喚きながら走り去るルイズを追いかける五ェ門 ルイズは扉に鍵を閉め、ベッドにもぐりこむ ドンドンと扉を叩く五ェ門 「うるさい!ゴエモンはどうせあたしのことばかにしてるんでしょ!」 涙声で叫ぶルイズ 埒が明かないと五ェ門は 「御免!」 キィン!キィン! ガラガラ・・・ 扉を切り倒しルイズのそばへ 「ルイズ・・・」 「こないで!なんなのよ!ほっといてよ!」 子供のように泣きじゃくるルイズ 立ち去ろうとしない五ェ門に当たるルイズ 「ばか!ばか!みんなあたしを馬鹿にするんだ!」 叩かれ続ける五ェ門 バシ!バシ! 何度も五ェ門の体を殴るルイズ 「ひぐっ!なんで・・・なにもしてこないのよう!」 一切抵抗しない五ェ門の態度にますます惨めになっていくルイズ 「なきたければ泣け、当たりたければ当たるがよかろう。」 だんだん五ェ門を叩くルイズの力は弱くなる ふと五ェ門がルイズの頭をなでる 「拙者は必死で努力し食らい付くルイズを認めている、見捨てるわけがなかろう。」 ぐしゃぐしゃになった顔を上げるルイズ。 「じゃあ、なんで・・・なんでキュルケやモンモランシーなんかと・・ぐす・・なかよくしてるのよ!」 五ェ門は昨日からの出来事をきちんと説明する だんだんとルイズの顔から怒りが消えていく 「と、いうわけだ。別に拙者はルイズをないがしろにしたわけではない。」 それに、と五ェ門 「お主はもっと自分に自信をもつのだ・・・だが辛くなったとき、泣ける時に泣くがよい、世の中泣くことも叶わぬ事もあるのだからな。」 ルイズは大声で泣いた 「うわああああああん!」 ルイズが人の胸の中で泣くなんて何年振りの出来事だろうか。 慈愛に満ちた目でルイズを見る五ェ門 そうしてルイズが泣き疲れて寝るまで五ェ門は懐を貸すのであった。 ルイズと五ェ門がすこし近くなった、そんな日の出来事 つづく 後日談― 次の日、学院から通達があった ―エントランスの椅子と寮の部屋の扉を弁償してね(ハート) オールド☆オスマン― 次の日、五ェ門はあまり睡眠を取れなかったが爆破された場所の掃除をしているのであった 前ページ次ページゼロの斬鉄剣
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前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園 たまたま紛れ込んでしまった妖怪の世界。ルイズ・ヴァリエールの新たな学園生活はここから始まる事になった。 「凄ーい!!」 多種多様な妖怪の生徒達の登校風景に、ルイズはすっかり目を奪われていた。 「ルイズ、楽しそうだね」 「あほうのように口が開いてる。あほうのように」 「あーっ、2回もアホって言った!!」 するとそこへ、 「先生、おはようございます」 「おはようございます」 (あ!! ミス・ロクロクビ) 「首どうしたんですカー?」 「先生ー」 見るとろくろ首先生の首は螺旋状にねじれていた。 「寝違えただけです。心配要りません」 (うわあ、ミス・ロクロクビ、寝相が悪いのね。意外……) そこまで言ってルイズの頭にとある疑問が浮かんだ。 「ねえねえキリ、妖怪にも男っているの?」 「いるにはいるけど……」 「ろくろ首にも男っているの?」 「私は見た事無いなー」 「あたしもー」 「そう……。それじゃわからないわよね……」 「何が?」 「男のろくろ首の喉仏って、上にあるのか下にあるのか気になって……」 「………」 「あー、それは気になるなっ」 ペロは自分の頭頂部を指差し、 「あたし的にはこの辺に付いてると押したい感じでいいと思う」 「……押したい? っていうかそれもう喉仏じゃないじゃない!!」 「ルイズは喉仏が好きだなあ、スキモノめ」 「そうじゃなくて!! 喉仏の話してたんでしょ!?」 「ルイズルイズ、ペロはいつもこうだから。それより急にそんな事気にしてどうかしたの?」 「うーん、ここで生活するって決めたらいろいろ気になっ……ああああ! じゃあじゃあじゃあ、男の妖怪がいるならもののけ男子学園もあるの!?」 「も……、もののけ男子学園ー!?」 「なあに、ルイズは男に興味があるの?」 「や……、そういう意味じゃないけど……っ」 「男なんてじじいとハゲしかいないよ?」 「えっ? そうなの?(どうやら私の学園ライフに恋の話は無さそうね。……まあ、学生の本分は勉強だから! ……ん、勉強?) そこまで考えてルイズはもののけ女学園での授業の事をふと考えた。 (妖怪の学校って何の勉強するの?) 考えてみれば昨日の授業を早退したため、もののけ女学園でどのような授業をするのかまったく知らない。トリステイン魔法学院とは明らかに違うのだろうと察しはついていたが。 ――リーンゴーン 「はい、席に着いてー。授業を始めます」 チャイムが鳴り、ろくろ首先生が教室に入ってきた。 (妖怪の勉強!!) その時ルイズの頭に浮かんだのは、 先住魔法で煙と共に姿を消す自分。 自身の長髪を針のように硬化させて発射している自分。 カラスの大群がぶら提げている座席に座り空を飛ぶ自分……。 ……そんな授業風景を妄想してわくわくしていたルイズだったが、 「今日の授業はもののけとしての妖艶さを磨くために、お化粧の学習をします」 ろくろ首先生の言葉はそんなルイズの期待を一瞬で粉砕した。 「ルイズ、どうしたの?」 「……いいのよ、期待しすぎた私が悪かったわ」 その言葉に一気にへこんだルイズにキリが声をかけるも、ルイズはそう答える事以外不可能だった。 ろくろ首先生は化粧道具の詰まった箱を教卓に置き、 「道具は教卓に置いておきます。各自化粧ができたら見せにいらっしゃい。先生は今日は首が苦しいので保健室で休んでます」 (やっぱり苦しいのね) ルイズがそんな事を考えていると、ろくろ首先生は思い出したように扉を開けかけた手を止め、 「あー、先生がいないからってサボったり美しく化粧できなかった子は……」 そこで教室内に振り返り、 「……お仕置きしますからね」 その言葉に教室内の温度が一気に低下した。 「お化粧かー。私下手くそなんだよねー。ルイズは?」 「私結構得意よ。こっそり母様ので練習してたから」 「えーっ、ルイズ凄ーい」 「ほらキリ、こっち向いて」 そんな会話を交わしつつ、ルイズはキリの唇に手際よく口紅を塗っていく。 「うわあ、キリ、可愛いわっ」 「口紅塗っただけでしょ?」 「ええ。でもそれだけでも凄く可愛いわ! いつも可愛いけど」 口紅だけとはいえ上手にできてご満悦という様子のルイズにペロも、 「ルイズー、あたしも! あたしも!」 「いいわよ。任せて、ペロ」 そして化粧完了したペロの顔は……、 「こ……、これがあたし……」 太い眉毛に塗りたくられたアイシャドウ、元の唇から遥かにはみ出している口紅と悲惨な状況だった。 「美しすぎる」 「どこの大女優かと思ったわ」 (それでいいんだ?) あまりにもあんまりなペロへの化粧に内心ツッコむキリだったが、ペロ本人は手鏡に映った自分の姿に見とれていた。 「あの……、私にもお化粧してくださいな」 そう声をかけてきた生徒の顔には目も鼻も口も無かった。 「わー、のっぺらぼう!! お……、お化粧ってどうやって……」 流石にルイズもどうしたものか困惑する。 「ビジュアル系っぽく」 「ビ……、ビジュアル系!? ……て、あれ?」 ふと気付いてその生徒の後方に視線を向けたルイズの見たものは、 「私も」 「私も」 「私も」 「私も」 「えーっ!?」 ずらりと並んだ生徒達だった。 「ちょ……っ、みんな、自分でやりなよ。ルイズが困ってるでしょ」 「いいわよ、キリ……。私やるわ!!」 そう言うが早いか神速と言うべき速度でルイズは作業を開始する。 下半身が蛇の者、9枚の皿を抱えた者、紙製の傘を被っている者、小豆入りの籠を持っている者、両腕が鎌になっている者……。みるみるうちにルイズの手で化粧が施されていく。 (ルイズ、凄い……っ) それを見ているキリは目を見開き頬に汗を流している。 (……何て酷いお化粧センス!!) 着物姿の少女の左目の周囲に描かれた大きな丸を呆れた視線で眺めるキリ。 (あの丸とか意味わかんないし) それでも明るい笑いを浮かべ嬉々として化粧を施していくルイズの様子を、微笑ましげに見つめていたのだった。 (でもまあ……、楽しそうだからいっか) ようやく全員への化粧が終わった教室内。 「あー、やっと終わったわ」 「お疲れ様! みんないそいそ先生に見せに行ったよ」 「あああっ!」 ルイズをねぎらうキリとは対照的に、ルイズは化粧道具が入っていた箱の中を覗いて愕然という声を上げた。 「私まだ自分のお化粧してないのにお化粧道具使い切っちゃった!」 そう、準備されていた化粧道具は生徒達への化粧で使い果たされていたのだ。 「口裂け女とか口紅凄く使ったしね。どうしよう……」 すっかりちびてしまった口紅を手に途方に暮れるルイズ。そこに、 「ルイズ」 「え……?」 振り向いたルイズの言葉を途中で遮るように、キリはルイズの唇に自分の唇を重ねて口紅を付けた。 「キ……、キリ、んっ」 「かわい」 十分口紅が付いたところでキリはそっとルイズの唇から離れた。 「さ、先生に見せに行こ」 保健室に向かうキリを後目に赤面して硬直するルイズ。 (キ……、キスしちゃった!!) その頃保健室では……、 「ぎゃあああああああ!!」 ルイズによる凄まじい化粧が施された生徒達の顔を見たろくろ首先生の悲鳴が響いていたのだった……。 前ページ次ページときめき☆ぜろのけ女学園
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ゼロのルイズが呼び出したのは、一人の少女だった。 緑の美しい髪と、赤い瞳が印象的な彼女は、嘲笑を投げかける観衆を一睨みで黙らせると、 それがさも当然というように、目の前のルイズの唇を奪った。 少女の名を、アセルスという。 またの名を、魅惑の君。 その日、ルイズは初めての恋に落ちた。 夕暮れの太陽が、部屋の中にある何もかもを赤く染めていた。 事情を説明するために案内されたルイズの私室の中で、二人は寝台の縁に並んで座っている。 「なるほど。私は君の使い魔ということか」 その声に不快の気配は無い。 左手に刻まれたルーンを、むしろ楽しげに眺めながらアセルスは呟く。 「あの……お嫌でしたか?」 恐る恐る、といった様子で、ルイズが尋ねる。 喧嘩友達のキュルケが聞いたら、耳を疑うような弱弱しい声音。 そこに透けて見えるのは、この人にだけは絶対に嫌われたくないという想い。 「ああ、いや、退屈しのぎにはちょうど良い。 ジーナには悪い気がするけど、土産話で我慢してもらう事にするさ」 くつくつと、それがさも楽しい事のように笑う。 笑うと、外見相応の幼さが貌に現れる。 そのさまに見惚れるルイズ。 もしかすると、と思う。 もしかすると、この異世界から来たというあまりにも美しい貴人は、自分と同じくらいの年齢なのかもしれない。 しかし、次の瞬間、ルイズを射抜いた眼差しが、その印象を裏切る。 最高級の紅玉を融かして流し込んだような紅の瞳が、春の日の残光とともに、ルイズの魂をも引き込んでいく。 息が苦しい。部屋の中から、それだけで光が奪われていくようだ。 とくとくと、小さな心臓が刻む鼓動が、ルイズの全身を震わせる。 ルイズは、ある種の確信をもって、アセルスの花唇が紡ぐ言葉を待っている。 「で、仕えるからには勿論対価が貰えると思っていいんだね?」 腕を掴まれる。 「え?」 そのまま寝台に倒れこむ。 「私は安くないよ?」 精々、楽しませてよ、と言って、アセルスの唇がルイズの口を塞いだ。 驚愕に見開かれたルイズの瞳がゆっくりと閉じる。 窓の外の夕陽は、今にも沈もうとしていた。 やがて、僅かな歳月の後に、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという少女が地上から姿を消し、 針の城に君臨するかの妖魔の君は、また一人寵妃を得ることとなった。 これは要するに、ただそれだけの話。 初恋が、永遠となった、一人の少女の物語。
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「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく強力な使い魔よ! 私は心より求め訴えるわ! 我が導きに答えなさい!」 私の渾身の力を込めた呪文で、予想通り地響きのする爆発が発生した。 (まーたルイズが失敗したよ) 外野の雑音を無視して目を凝らすと、土煙の中に何かの影が見えた。 やったの?召喚できたの? 風が吹き、土煙をかき消していく。 その姿が顕わになっていくとともに周りのどよめきが大きくなる。 そこに居たのはまさにルイズの理想の姿であった。 「ち、ちぃ姉さま?」 まさか、使い魔として実の姉、敬愛し理想とする姉を召喚してしまったのか? 愕然としたルイズの顔面が一瞬で蒼白となる。 「あー、ミス・ヴァリエール、はやく、コントラクト・サーヴァントを」 付添の教師であるコルベールの声と共に、ぎくしゃくとした動きでルイズが近寄る。 ちぃ姉さまことカトレアらしき人物はゆらゆらと立ってじっとルイズを見つめる。 (あ、似てるけど、違……う) 違和感があった、目の前の女性は、確かにカトレアそっくりだが、更にルイズの理想に近かった。 (ええい、とりあえずー) 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 五つの力を司るペンタゴン この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 ルイズは呪文を唱えそっとキスをしようとした。 「ここじゃだめね」 「は?」 キスとしようと肩を掴んだら、その女性は初めて声をあげてルイズをふりほどいた。 おもわず愕然としたルイズをしり目に、その女性は淡々と告げる。 「ちょっとトイレ借りるわね」 「へ?」 ルイズの呆けた顔をしり目に、その女性は塔の方へ走っていった。 「おーい」 その姿を見送っていたルイズの口から、なんとも、気の抜けた呼びかけが走りゆく女性の背にかけられる 「あとでね」 カトレア似の桃色の髪のルイズの理想とする女性は、わき目もふらずに走っていった。 その場にいた全員はあっけにとられモブと化していた・・・・・ 「い、いったい、何? 何を召喚したの? 私」 人工少女3のT型を召喚
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前ページニニンがゼロ伝・音速の使い魔 第二話 ルイズ、怒るの巻 ここは学校の正門。 二人の少女がたどり着いた。 一人はマントを羽織った学園のメイジ。 もう一人はピンクの服を着た黒髪の少女。 二人とも服は破れ体中傷だらけ。一言で言えば『ボロボロ』だった。 「はぁ、はぁ・・・やっと着きました~いい汗かいた~」 達成感に満たされた表情でピンクの服の少女、忍が爽やかに言った。 「あ゛ー・・・死ぬかと思ったわ・・・」 もう全てに疲れたと言った表情のメイジの少女、ルイズが呟いた。 「途中、森に落ちて大変でしたね~」 「途中じゃなくて学園飛び越えたじゃないの・・・狼にも襲われるし・・・」 ジト目で忍を睨むルイズ。 「えっと、その、良い思い出はお金じゃ買えないですよね、えへへ!!」 「どこがいい思い出よーーーっ!!」怒鳴るルイズ。 「ごっ、ご免なさい・・・」しゅんとする忍。 「えっ、あっ、その・・・は、反省してるみたいだから今回は許してあげるわ!今度失敗したら許さないんだから!」 「ありがとう!ルイズちゃん!忍はアナタの優しさに感動です!!」ルイズの手をとり瞳をキラキラさせる。 「うっ・・・」頬を赤らめるルイズ。 (だっ、ダメよ、甘やかしちゃ!貴族と平民・・・コイツらニンジャとか言ってたけど、ちゃんと躾て差を思い知らせてやらなきゃ!だけど・・・だけどっ) 「あの、どうかした、ルイズちゃん?」 ニコッとして首をかしげる忍。 (だっダメだぁ・・・・) ルイズの表情はふにゃりとなった。 正常な思考をなんとか取り戻したルイズは忍と話しながら自室へと向かった。 「良い?もうあの『ムササビの術』は使っちゃダメ!使う時は一人でやんなさい!解った?」 「は~い、これからはちゃんと気を付けま~す」 (ホントに解ってんのかしら・・・) ブツブツ良いながら自室のまえにたどり着く。 扉の鍵を開けようとするが・・・ あれ?鍵が掛かって無い? おかしい、鍵は掛けたハズなのに。 ノブを回し扉を開ける。 がちゃり。 「おい遅ぇぞルイズ何処をほっつき歩いていやがった!」 テーブルの上で黄色い生物が鎮座していた。 「お邪魔してまーす」 「ルイズちゃん、忍ちゃん、お帰りーっ」 忍者たちがテーブルの周りでくつろいでいた。 ○| ̄|_ <ルイズ 「・・・てけ・・・」 何か良いながら、ゆらりと立ち上がるルイズ 「出てけぇぇぇぇぇぇ!」 怒り狂い音速丸を追い回し始めるルイズ。 「大変だ、音速丸さんを助けなきゃ!」 「音速丸さん!今助けます!」 がしっと二人の忍者が音速丸を確保する。 「ルイズちゃん、はいコレ」 一人の忍者が鞭をルイズに手渡す。 「テメェら見事なフォーメーションでオレ様に何しやがる!っていうかその鞭は何だオイ!?」 「やだなぁ、気のせいですよ。偶然ですよ偶然」 「嘘付け!ぜってぇワザとだろうが!」 ジタバタ藻掻く音速丸。 「あら・・・気が利くじゃない・・・ウフフフフ・・・」 完全にイッちゃった目で鞭を受け取るルイズ。 「イヤーッお止めになってぇー!」 「バカな使い魔には・・・お仕置きよ!!」 ビシーン、バシーン 「アヒーーーッ!!、ウヒィーーーッ!?」 鞭の音が音速丸の尻に響き渡った。 時間が経過して・・・ 「アンタたちソコに並びなさい」 音速丸の尻を鞭でたたいてストレスを発散したルイズはいくらか落ち着いて忍者たち目の前に整列させていた。 ちなみに音速丸の尻が素敵な事態になっていた為、まだ倒れたままだ。 (羨ましい・・・) (なんて羨ましい・・・) (自分が女の子だからって、なんて羨ましい・・・) 「・・・と、言うわけでアンタ達には使い魔をやって貰うわ。ちゃんと私の命令に従うのよ。解った?」 音速丸の尻を鞭でたたいてストレスを発散したルイズはいくらか落ち着いて忍者たちに言い放つ。 だが忍者たちの耳には届いて居なかった。 何が羨ましいのか? ルイズの後ろで忍が後ろからルイズを抱きしめるように立っていた。 むにっ。 忍の胸に埋まるルイズの後頭部が羨ましくてしょうがない。 「何よ、アンタたち聞いてるの?」 「ズルイ!ズルイですよルイズさん!何ですかその後頭部に押しつけられたシロモノは!?」 「見せつけられる我々の身にもなって下さいよもう!!」 「コレは何かの罰ゲームなんですか!?いや、ボーナスゲーム!?一体どっちなんだーっ!?」 身悶え、興奮し、混乱する忍者たち。 「うっさいわね!話聞けって言ってんでしょ!良いのよこれは使い魔に対するご主人様の特権なんだから!」 いや、契約したのは音速丸だけなのだが・・・ あんなヤツ、使い魔にするなんて願い下げよ! ごもっとも。 どうせならこっちの忍みたいに・・・その・・・ はいはい。 「なんか自己完結してるところを悪いんだけどルイズちゃん」 頭の上から声がした。 「ん?なーに?シノブ」 ちょっと甘えたような声になるルイズ。 「えっとね、使い魔さんってのをやるのは良いんだけど、何をすればいいのかしら?」 「んっとね、使い魔は主人の目となり耳となる・・・感覚の共有が出来るハズなんだけど・・・出来ないみたいねー」 契約は音速丸としかしていないから当たり前なのだが、当の音速丸とも出来ていない。 それ以前に音速丸と感覚の共有など以ての外。論外。 「諜報活動ですね、忍者のお仕事の基本です!何処でも忍び込んでヒミツを探っちゃいます!」勘違いする忍。 「ちょっと違うんだけど・・・ま、良いか」 「次は~?」 「あとは主人の為に望む物を探してくるの。秘薬の材料になる薬草とか鉱物とか・・・」 「それなら大丈夫です!忍者はお薬を作るのもお仕事のウチですから!」 「あら、なかなか役に立つじゃない。見直したわ。」 「へへへ、任せてください!」 この忍者たちは誰も『コチラの世界』の薬草や鉱物を知らないのだが。 「最後に、ご主人様を危険から守る事よ」 「もちろん!影ながら君主を守る事こそ忍者の本分!忍者の指命!」 拳をグッと握り目をキラキラさせる忍。 (うっ、ちょっと心配かも・・・) ムササビの術のトラウマがちょっと心をよぎる。 「まぁ、とりあえず洗濯とか掃除をとか、雑用をして貰うから」 「了解致しましたっ」シュタッと敬礼する忍。 「はぁ・・・怒ったり、話したりしたら疲れたわね・・・もう寝るわ・・・」 そういうとルイズはブラウスのボタンに手を掛け外していく。 「「「うぉぉぉぉぉ!?」」」 忍者たちから歓声が上がる。 「・・・・・。」睨むルイズ 「「「(どきどき・・・)」」」 目が合う忍者たち。 「アンタ達は外よ!!」 「ええっ!これからイイとこなのに!」 「ヒドイや、ヒドイやルイズさん!」 「お願いです!もうチョットだけでイイから!」 「うるさい!出てけーーー!」 ゾロゾロと出て行く忍者達。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・ふぅ・・・、ねえ忍、着替えさせて」 「はぁい。」 てきぱきとルイズを着替えさせる忍。 「ねえ、ルイズちゃん。」 「何?」 「ベッド、一つしか無いんだけど、私は何処で寝れば・・・」 「使い魔はゆ・・・」床と言おうとして止めた。 「い、イイわ、私と一緒のベッドで寝ることを許してあげる。感謝しなさいよねっ」 「えへへ、ありがとうルイズちゃん」頭なでなで。 (あぁぁぁ、良いわ~)ふにゃりとするルイズ。 だがルイズの心の平穏が打ち砕かれた。 「あーもう!何ですかアナタ達!女の子同士でフトンに入るときは服を脱ぎなさい服を!お父さんこれ以外認めませんよ!あ~柔らけぇ、柔らけぇ」 ガラガラッ、窓を開け、むんずと音速丸を掴むルイズ 「死ねぇぇぇぇぇっ!」 ごしゃっ、 「うぼぁ!?」 ルイズに蹴り上げられた音速丸は天空にある双月に向けて一直線に飛んでいった。 たぶん、つづく。 前ページニニンがゼロ伝・音速の使い魔
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(あ……、ブリジッタ、髪がさらさらしてる) 視線の先にいる少女・ブリジッタの艶やかな長髪を、ルイズは羨望の眼差しで見つめていた。 (ベアトリスは頭が小さくて肖像画のモデルみたい……) 続いて、壁に寄りかかって女子生達と何やら話している長身の少女・ベアトリスに目を向ける。 (ミス・ロングビル……、この間クラスの男子が話してた……。やっぱり綺麗ね……) 心の中でそう呟いて、ルイズはひとつ溜め息を吐いた。 (それに比べて私って……) 「じゃね、ルイズ。バイバーイ」 「また明日ね」 「バイバイ」 校舎を出たところでルイズはキュルケ・モンモランシーと別れ、自室がある女子寮への帰路に着く。 (今日もいつも通りの帰り道。そして窓に映るいつもの私……) 教室の窓に映るルイズの上半身は、胸元から腹部にかけてなだらかな曲線を描いていた。 「せめてこの胸が洗濯板じゃなかったらいいのに……。パッドを入れててはみたけれど不自然なだけだもの」 溜め息をついて歩き出すと、女子寮玄関近くの長椅子に少女用にアレンジされた水兵服姿に長い黒髪の少女が目を閉じて座っていた。 ルイズが召喚した少女・メグだ。 「うわあ……、いつ見ても可愛いわね……。こんな可愛い……ううん、綺麗なの使い魔どころか人間にだって見た事無いわ……」 ルイズがしばらく見とれていると、メグはルイズの接近を感知したかのように目を開けた。 「ガラスみたいな黒い瞳……」 無言のまま立ち上がったメグだったが、その足取りがおぼつかない。 すぐにふらついてルイズの肩にしがみつく。 「ね、ねえ、何か具合悪そうだけど、大丈夫なの?」 ルイズがそう声をかけると、メグは木立の中からわずかに見えている小さな建物の方向を指差した。 「あの建物に連れていけばいいのね」 メグを連れて向かったその建物は少々大きめの小屋程度の大きさで、扉の横に大振りの窓があった。 「あんな建物、あったかしら……? 今まで気が付いた事無かったわ。いつも通る道なのに」 扉の前に置かれている黒板にただ一言「Doll Shop」と書かれている事に気付いて、ルイズは訝しがる。 「『Doll Shop』……人形屋? 学院内に?」 ――チリン…… 扉を開けると、ドアベルが涼やかな音を立てた。 「ちょっといいかしら」 「いらっしゃいませ」 ルイズが声をかけると、人形でいっぱいの店の奥から1人の若者が姿を現した。 「あ、私の使い魔が具合悪そうにしてて……」 「それは大変です。きっと外の空気にあてられたのでしょう」 若者はルイズから受け取ったメグを抱きかかえ、手近にあったソファーに横たわらせた。 そこで若者はルイズの顔をちらりと眺め、 「……何かお悩みのようですね。ここで会ったのも何かの縁です。私に相談に乗らせてください」 「いえ、いいのよ、そんな」 と固辞したルイズだったが、店内にずらりと並んだ人形を眺めて溜め息を吐く。 「人形、可愛いわね……」 「僕がカスタムした人形達なんです」 「胸も大きいし、綺麗な目。手も足も細くて小さい顔。こんな風になりたいっていう女の子の理想が、みんな詰まってるわ。私の使い魔みたい……」 そう言ってドレスを纏った人形を1体抱き上げたルイズに、若者は予想外の言葉をかける。 「あなたの望み、少しだけ叶えてあげましょうか?」 「えっ?」 「さあ、望みを言ってください」 「私の望みは――」 ――願いを叶えるドール・ショップ とても美しいドール達 大きな瞳に綺麗な髪 誰もが心を奪われる―― 「ルイズ! 早く準備しなさいよーっ」 部屋の外からキュルケが声をかけてきた。 「うーん……、わかってるわよ……」 上半身だけを起こしたルイズは、目を擦りつつ昨日の奇妙な店での記憶を思い返した。 「……あれ、朝じゃない? あの店って夢だったのかしら? 私いつ部屋で寝たのかしら」 ぼんやりしつつも制服に着替えるべく寝間着の上着を脱ごうと胸元に手を伸ばして、ふと違和感を覚えた。 視線を下に向けると、ルイズの胸が寝間着に2つの大きな膨らみを形成していた。 「えっ、これ、私の胸!? あの店、夢じゃなかったんだわ!」 ルイズの脳裏に、若者の言葉が蘇る。 ――あなたの望み、少しだけ叶えてあげましょう。 制服に着替えてからも、ルイズは胸が変わった自分の姿を姿見に映して何度も微笑んだ。 (こんな事信じられる? ずっと夢見てた大きな胸。大きさが変わっただけで、何だかいつもよりちょっと可愛く見えるのは気のせい?) 「ルイズ!! どうしたの、その胸!?」 「シリコン入れた!?」 教室に入ってきたルイズの胸に、キュルケ・モンモランシーは驚愕の声を上げた。 「うふふ、内緒よ」 「ずるーい!!」 「ごめんごめん、ほんとはよくわからないのよ」 自分でも上手く説明できる自身が無かったため適当にあしらおうとしたルイズだったが、その返答にキュルケは激しく抗議した。 そこにモンモランシーから、予想外の言葉がかけられる。 「ルイズって、結構可愛いよね」 「え……、そ……、そうかしら?」 「絶対胸元開けてた方が可愛いって!」 思ってもいなかった言葉に嬉しさ半分困惑半分といった表情になるルイズだったが、モンモランシーに続いてキュルケも、 「うん、その方がいいわ!」 その直後の授業が終わった後の休み時間、 「今まで思わなかった事なのに……」 女子トイレの鏡の前でじっと自分の顔を見つめているルイズの姿があった。 (ダイエットしてみようとか、薬用リップを色付きに変えてみようとか、いつもと違う服を選んでみようとか。私を少しだけ変えるには十分な魔法の言葉。少しだけ可愛くなれる魔法ね) それから半月ほど経って……。 「ルイズって最近変わったよね」 「うん」 「ちょっと痩せた?」 「そうでもないわよ」 軽く否定したルイズだったが、その表情には隠しきれない喜びが色濃く出ている。 (本当は5リーブルダイエットしたわ。シャンプーもちょっと高いのにしてみたし、お小遣いだって洋服と化粧品で全部使っちゃってる) 「もっと頑張れば、もっと『可愛く』なれるのかしら……。もっと、もっと……」 ふと気付くと、ルイズの目の前に1つの扉があった。 「……あれ? この扉……、あの人形屋(ドールショップ)の扉? いつの間にこんな所に……」 不審に思って周囲を見回すと、まるで霧に閉ざされているかのように白くぼんやりとしていた。 そこでようやくルイズはつい先程ベッドに入った事を思い出した。 「ああそうか、私夢を見てるんだわ」 「その扉を開けちゃ駄目。そこは『ドールショップ』なのよ」 聞こえてきた声に振り向くと、そこにはメグが立っていた。 その表情は召喚以来の無表情ではなく、深い悲しみが色濃く出ていたものだった。 「メグ……、なぜそんな悲しそうな目で私を見るの? 怖いくらいに綺麗な瞳……。何が悲しいの?」 その翌日、ルイズがキュルケ・モンモランシーと共に談笑しつつ廊下を歩いていると、 「あ!! ミス・ロングビル!! クラスの男子に大人気なのよね」 「うわー!! 隣の人、ワルド子爵じゃない!!」 突然2人が上げた声に、ルイズははっとしてキュルケ達が見ている方向に視線を向ける。 するとそこには羽飾りを付けた帽子を被った青年と眼鏡の女性が、楽しげに微笑み合っていた。 「何かあの2人、凄くお似合いね」 「2人並んでると別世界って感じ」 「別世界……」 モンモランシーの何気無い一言に、ルイズは硬直した。 (私も少し憧れたわ……。ただの憧れだったのは、私じゃつり合わないのがわかっていたから。何であの子はあんなに可愛いのかしら。私がどんなに頑張っても、あの子みたいにはなれない……。でも……、あと少し目がぱちっとしてれば? 口元が……、鼻が……。あと、少しだけ……) そんな事を考えていたルイズが顔を上げた時、彼女の目の前に昨夜夢で見た扉がいつの間にか存在していた。 「あの扉、『Doll Shop』? 何で校舎(ここ)に!? ねえ、みんなっ……」 ルイズは慌てて後方を振り返りキュルケ達を呼んだ。 しかしその時既にルイズの周囲からは人影が1人残らず消えていた。 「いない!?」 『――あなたの望み、少しだけ叶えてあげましょうか?』 ルイズの脳裏に、メグを抱きかかえた若者の姿と言葉がフラッシュバックした。 『――さあ、望みを言ってください』 『――その扉を開けちゃ駄目』 若者の声がルイズを誘い、メグの声がルイズを止める。 わずかな躊躇の後、ルイズはその扉を開けた。 ――チリン…… 扉を開けると、ドアベルが涼やかな音を立てた。 「お待ちしていましたよ、お客様……」 扉の向こうでは、ティーセットを載せたトレイを持った若者がにこやかにルイズを出迎えた。 (私が来る事知ってたみたい……) ――願いを叶えるドール・ショップ 今日もドアが開く音がする 店に訪れた少女たちは たちまちドール達の虜―― 「――そうですか……。女の子というのはそれだけで宝石のように素晴らしいと思うのですが……」 ルイズの話を聞いた若者は、慣れた手付きでティーカップに紅茶を注いでそう答えた。 「でも可愛くないとやっぱり駄目なのよ! その人形達みたいに……」 若者の言葉を強い口調で否定したルイズは、テーブル上に座らされている人形に視線を向ける。 すると次の瞬間、 ――ざわ…… 突然店内がざわめいたようにルイズには感じられた。 ――ざわ……ざわ……ざわ…… 気のせいかとも思ったがそうではなかった。 そのような事などありえないにもかかわらず、店内の人形達がざわめいているかのように奇妙な気配を放っていた。 「え……? 何これ……。人形が騒いでるの?」 事ここに至り、ルイズにもようやくこの「Doll Shop」が尋常ならざる場所である事が理解できた。 理屈ではなく本能的にここから離れなければと考え、慌てて立ち上がる。 「わ……、私そろそろ帰らないとっ……!!」 しかしその行動を封じるように、いつの間にかルイズの背後に回っていた若者が彼女の肩に手を置く。 (……いつの間に私の後ろに!?) 「普通彼女達は言葉を持ちません。でもいろいろな事を考え、感じています。店にいる娘(こ)達は特にです」 若者の続ける言葉は異様なまでに淡々としていて、明らかにルイズに……いや、誰かに聞かせるような口調ではなかった。 「私は彼女達の『望み』を叶えて、カスタムしてあげました」 「何の事を言ってるのよ?」 ――クスクス……クスクスクス…… 「新しいお友達?」 「そうみたい」 「お友達ね……」 突然聞こえてきた笑い声に周囲を見回すと、いつの間にか店内には何人もの少女が微笑みを浮かべつつルイズ・青年を見つめていた。 ある少女は東方風の服を、またある少女は豪華なドレスを、さらに別の少女は**を……。 「この店人形しかいなかったのに、いつからこんなに人が!? ……わ、私やっぱり帰るわ!(この店、変よっ!)」 店内の異様な雰囲気に怯え、踵を返すルイズ。 しかし扉の所に立っていた見覚えある少女の姿に、思わず立ち竦む。 「メグ……」 「なぜまた『お店(ここ)』に来てしまったの? 駄目って言ったのに……」 「え……?」 メグの言葉を不審がるルイズ。しかしそこに、 「あなたの望みは、『もっと可愛く』『もっと綺麗に』でしたね」 「!!」 自分の心の中を見透かしたかのような青年の言葉に、ルイズは驚愕の表情で振り返った。 「お友達よりも、肖像画よりも、あの男性の隣にいた女性よりも。この人形達のように……」 「『この人形達のように』……」 ルイズが虚ろな視線で青年の言葉の最後を反復すると青年は怪しげな笑みを浮かべ、 「僕が叶えてあげますね」 「もっと可愛くなりたい、もっと……」 羨望を込めて見ていた、ブリジッタ・ベアトリス・ロングビルの姿がルイズの脳裏を過ぎる。 「もっと……」 ルイズの手から握っていた杖が落ち、床に転がって音を立てた。 ――ガラスの様な綺麗な瞳 惹かれたならばもう帰れない 店員が耳元で囁く 「貴女も綺麗になりませんか?」―― 「知ってる? この辺で生徒が行方不明になったんだって」 「うちのクラスでも……」 「嘘ー」 「えー、プチ脱走じゃないの?」 「真面目な子だったんだよー」 ルイズが行方不明になってから数日後、噂話に興じる少女達を気にも留めず「Doll Shop」のショーウィンドーを覗いているタバサの姿があった。 「……可愛い……」 「ありがとうございます。この娘(こ)はカスタムが終わったばかりなんですよ」 人形の可憐さに、タバサの表情にかすかな羨望が宿る。 「……私も……こんな風になりたかった……」 「その望み、少しだけ叶えてあげましょうか?」 そんな2人の視線の先にいる人形は、美しい桃髪と豊かな胸を持ち魔法学院の制服を纏っていた……。 ――願いを叶えるドール・ショップ 次々と増えるドール達 店に訪れた少女達の 行き先を知る者はいない 甘く誘う魅惑の言葉 頷いたならもう逃げられない もしも私の店に来た時は 「貴女もドールにしてあげましょう」――